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Kai 12 休憩室・・・That’s ill!

2013年4月6日

 

場所は渋谷道玄坂。10代の日本人の男の子が立ってます。たまたまそこを通りかかったアメリカ人のこれも明らかに10代の女の子が、男の子のTシャツを指さして

“Wow! That’s ill!”

と言いました。さあ、その意味は次のうちのどれでしょうか?

A.
「きもーい!」
B.
「ださーい!」
C.
「ヤバイ!」

これはどう考えてもAでしょう。一歩譲って、B。どう考えてもCはありえない。というのが予想される答えです。ところで「ヤバイ」の意味はご存知ですね。通常は「まずい」、「よくない」という意味が、ここでは「素晴らしい」という最上級の賛辞として使われてます。

答えは実はCなのです。この意味は私も本当につい最近知り、びっくりしました。慌てて手元の辞書を調べたのですが、研究社もランダムハウス も、American Heritage にしても、全くこの意味は掲載されてません。2007年小学館発行の「英語多義ネットワーク辞典」というものがあります。主要な英語の最重要多義語 1,427語を選び、その多義の仕組みを解説するという、なかなか洒落た、そして結構最新の辞書です。しかしここでも、 ill の項に載っている意味は全て、具合が悪い、吐きそう、有害、不吉、災い、等々、気が滅入るものばかりです。

ill という言葉のどこをひっくり返しても、「最高!」とか「格好いい!」いう意味は出てきません。どうやらこの意味はラップの世界で生まれ、今はアメリカの若 者の間では相当に普及しているようです。意味が完全に逆になっているところは、まさに「ヤバイ」と似ていますね。

こういう例に出会うと、つくづく法務翻訳をやっていてよかったと思います。頭を悩ますことは沢山ありますが、使われる言葉の意味が全く逆か もしれない、ということはまずありません。それに比べると、映画やゲームを翻訳する人達は大変でしょう。ホットな言葉を多く扱う訳ですから。

よく夏にアリゾナ州のフェニックスに行きます。必ず寄る先に昔の会社の同僚(アメリカ人)がいます。2005年のことでした。8月に行くというメールを送ったところ、その娘さんのMちゃん(当時は10才くらい)から家族を代表してメールが来ました。

++++++++++++++++++++++

差出人: xxxxxxxxx@cox.net
件名: RE: We are visiting Phoenix in August
日時: 2005年7月22日 22:18:04:JST
宛先: xxxxxx@kaicorp.com

Awesome!

—–Original Message—–
From: Akira Taguchi [mailto: xxxxxx @kaicorp.com]
Sent: Tuesday, July 19, 2005 6:35 AM
To: yyyyyyyyyy@cox.net
Cc: xxxxxxxxx @cox.net; xxxxxx@kaicorp.com
Subject: We are visiting Phoenix in August
(2年ぶりに行くという私の英語のメッセージ)

++++++++++++++++++++++

つまり一言 “Awesome!”。

これには正直面食らってしまいました。

そもそも awesome という単語を目にするのは学生時代以来のことです。アメリカに留学していた時も、その後米国企業で勤務していたときも、耳にしたことはありません。

この単語は awe (畏怖)の派生語ですが、当時の私の理解では、「恐ろしい」という意味しかありません。Mちゃんは赤ちゃんの時から知ってますが、頭も性格もとてもよい子 なのです。お客さんに向かって「怖い」とか、「ひどい」等と言う娘ではありません。一体どうなってるのかと、それこそ恐れおののいてしまいました。

フェニックスで飛行機を降り立った瞬間、45℃の猛暑のせいでそんな心配もふっとんでしまい、友人宅を訪れるといつものように歓待してくれ ました。Mちゃんも相変わらず機嫌よく元気でした。一体あれは何だったのだろう、とやや狐に包まれた気分でした。しかし滞在中、頻繁にこの言葉を聞き、や がてそれが「すごい」とか「素晴らしい」という意味で使われているのが分かり、やっとほっとしたのを覚えてます。

今や awesome は英語圏を席巻している感があります。例えばYouTube を覗くと、投稿者に対して向けられる賛辞はawesome が圧倒的に多い気がします。若者ばかりではありません。先日(米国時間 2010年1月27日) iPad を発表したスティーブ・ジョブス氏は、1時間半に及ぶプレゼンテーションの 最中、私が数えたところ7回も awesome を使ってました。ちなみに一番多かった賞賛の言葉は great で20回以上です。他に、phenomenal が6回、 amazing が5回、そしてwonderful が4回でした。terrific も2回使ってましたね。

Mちゃんの家を訪れた翌日、用事があって Wells Fargo 銀行に寄りました。カウンター越しに20代と思われる女性行員と話しをしたのですが、この人が何かというと “Awesome” と独り言を言います。私が書き込んだ書類を受け取って、 “Awesome”。自分でそれに何か書き足して、“Awesome”。日本語の「これでよし!」という気分なのでしょうか。あまりに連発するので、私は 思わず聞きました。「今回久しぶりにアメリカに来て、いろんな人が “Awesome!” と言っているのが気になったが、あなたも awesome と言ってますね。私が昔アメリカにいた時は、この意味で使われたことはなかったと記憶してますが、今では普通に使う言葉なのですか?」

すると彼女はキョトンとして、「私が?私が awesome って言ってるって?私はそんなこと言ってないわよ。」と言うではありませんか。そして、いかにも『この人は何を言ってるのかしら。変な客。』というような 顔をして、最後の確認作業のために、どこかに電話をかけました。それも問題なく片付いたようで、受話器を下ろしながら一言。 “Awesome!”

本当にこのお姐ちゃんが一番 awesome でした。

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