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Kai 9 小技の紹介

2013年4月3日

ここでは法務翻訳に役立ちそうな小技を紹介します。

当初の構想は「盛り沢山」だったのですが、サイト公開(2010年5月)に間に合いそうもなかった ので、とりあえず用意できたものに留めました。

今後は、翻訳技術そのものに関する小技に限らず、サポート・ツールに関する小技も含めて落ち穂拾いをしていきたいと思います。

ではこちらからどうぞ。

1. 同号問題

この「同号問題」は私の造語です。これは「小技」というよりも、法務翻訳で常に念頭に置いておくべき大事な reminder なので、冒頭に置きました。どういうことか、実例を見てもらうのが早いと思います。

次の例は、「日本法令外国語訳データベースシステム」の民事訴訟法の翻訳から取りました。

(受命裁判官による弁論準備手続)

(Preparatory Proceedings by Authorized Judge)

第百七十一条 裁判所は、受命裁判官に弁論準備手続を行わせることができる。

Article 171 The court may have an authorized judge conduct preparatory proceedings.

2 弁論準備手続を受命裁判官が行う場合には、前二条の規定による裁判所及び裁判長の職務(前条第二項に規定する裁判を除く。)は、その裁判官が行う。ただし、同条第五項において準用する第百五十条の規定による異議についての裁判及び同項において準用する第百五十七条の二の規定による却下についての裁判は、受訴裁判所がする。

(2) Where an authorized judge conducts preparatory proceedings, the duties of the court and the presiding judge under the provisions of the preceding two Articles (excluding the duty to make a judicial decision prescribed in paragraph (2) of the preceding Article) shall be performed by the authorized judge; provided, however, that a judicial decision on an objection under the provision of Article 150 as applied mutatis mutandis pursuant to paragraph (5) of said Article and a judicial decision on dismissal under the provision of Article 157-2 as applied mutatis mutandis pursuant to said paragraph shall be made by the court in charge of the case.

法律の文章では、同じ条項の中で直前に引用されている条や、項、号を再度引用する場合は、繰りかえしを避け、「同条」、「同項」、「同号」と省略します。

「分かりやすい法律・条例の書き方」(礒崎 陽輔、ぎょうせい)には次の様な説明があります(72ページ):

「条文中で直前に引用された法令、条、項及び号を再引用するときは、「同法」、「同令」、「同条例」若しくは「同規則」、「同条」、「同項」又は「同号」としなければならない」

「しなければならない」という所に注目して下さい。

ですから上の第百七十一条の例ですと、第二項の中の文章「同条第五項において準用する第百五十 条の規定による異議」の「同条」は、この文章の直前にある「前条第二項」の「前条」を指してい ます。この条が第171条ですから、その直前の第170条を意味します。

ところが英訳を見て下さい。この日本語原文の「同条」にあたるのは “said Article” だと思いま すが、その直前には “Article 150” が来ているので、このまま素直に読むと、「同条」は「第150 条」になってしまいます。ちょっと入り組んでますので、注意深く読んで下さい。

原典をあたっていない(というか、あたっても読めない)アメリカ人の弁護士がこの訳文を読めば、当然そう解釈するでしょう。

なぜこんなことになってしまったかというと、日本語と英語では文章構造が変わってしまうためです。従って、このような同条、同項、そして同号などの表現が出てきたら、出来上がった英訳を見直して、気づかないうちに「場違い」が発生していないかどうか、必ずチェックしなければなりません。

これを私は「同号問題」と呼んでます。(上の例では「条」でしたが、「項」でも「号」でも起きますので、とりあえず「同号」問題と呼んでます。)

では、これはどうやって解決すればよいのでしょう。原文の言葉の順序に揃えて訳文の言葉を並べればよいのでしょうか?しかし、日本語と英語には、根本的な文章構造の違いがあるので、これはかなり難しいでしょう。

実は簡単な解決方法があります。“said Article” ではなく “Article 170” とすればよいのです。

つまり日本語の「同」という言葉を尊重するあまり、“said Article” とか、“such Article” 等の「相対的」な呼び方を機械的に採用しているのでしょう。この相対的な呼び方にしがみついていると、この問題はなかなか解決しません。条項番号を明記する「絶対的」な解決方法が、場合によっては有効です。

ところでこの「同」は日本語の文章ではとても好まれます。条、項、号などの法的用語に留まらず、年次報告書などでは「同年」という用語もよく使われます。これも翻訳の時には、文章の構造が入れ替わって全く異なる年を指しかねないので、気をつける必要があります。

政府運営サイトに見られる他の実例も見てみましょう。問題形式にしました。どこに同号問題が隠れているか、探してみて下さい。

(クリックで問題と答えを表示します)

[問題1](初級者向け)

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律

第四十四条
(中略)
2. 派遣中の労働者の派遣就業に関しては、派遣先の事業のみを、派遣中の労働者を使用する事業とみなして、労働基準法第七条、第三十二条、第三十二条の二第一項、第三十二条の三、第三十二条の四第一項から第三項まで、第三十三条から第三十五条まで、第三十六条第一項、第四十条、第四十一条、第六十条から第六十三条まで、第六十四条の二、第六十四条の三及び第六十六条から第六十八条までの規定並びに当該規定に基づいて発する命令の規定(これらの規定に係る罰則の規定を含む。)を適用する。
この場合において、同法第三十二条の二第一項中「当該事業場に」とあるのは「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)第四十四条第三項に規定する派遣元の使用者(以下単に「派遣元の使用者」という。)が、当該派遣元の事業(同項に規定する派遣元の事業をいう。以下同じ。)の事業場に」と、同法第三十二条の三中「就業規則その他これに準ずるものにより、」とあるのは「派遣元の使用者が就業規則その他これに準ずるものにより」と、「とした労働者」とあるのは「とした労働者であつて、当該労働者に係る労働者派遣法第二十六条第一項に規定する労働者派遣契約に基づきこの条の規定による労働時間により労働させることができるもの」と、「当該事業場の」とあるのは「派遣元の使用者が、当該派遣元の事業の事業場の」と、同法第三十二条の四第一項及び第二項中「当該事業場に」とあるのは「派遣元の使用者が、当該派遣元の事業の事業場に」と、同法第三十六条第一項中「当該事業場に」とあるのは「派遣元の使用者が、当該派遣元の事業の事業場に」と、「これを行政官庁に」とあるのは「及びこれを行政官庁に」とする。

(2) With regard to dispatch work performed by a worker under dispatching, the provisions of Article 7, Article 32, paragraph (1) of Article 32-2, Article 32-3, paragraphs (1) to (3) inclusive of Article 32-4, Articles 33 to 35 inclusive, paragraph (1) of Article 36, Article 40, Article 41, Articles 60 to 63 inclusive, Article 64-2, Article 64-3and Articles 66 to 68 inclusive of the Labor Standards Act and the provisions of orders based on said provisions (including penal provisions pertaining to these provisions) shall apply only to the client undertaking, by deeming it to be an undertaking employing a worker under dispatching. In this case, the term “at the workplace” in paragraph (1) of Article 32-2 of the same Act shall be deemed to be replaced with “at the workplace of a business of the dispatching undertaking (which means the dispatching undertaking prescribed in the same paragraph; the same shall apply hereinafter), where an employer of the dispatching undertaking prescribed in paragraph (3) of Article 44 of the Act for Securing the Proper Operation of Worker Dispatching Undertakings and Improved Working Conditions for Dispatched Workers (hereinafter referred to as “the Worker Dispatching Act”) (hereinafter such employer shall be simply referred to as a “dispatching employer”)”; the term “pursuant to rules of employment or the equivalent thereof” in Article 32-3 of the same Act shall be deemed to be replaced with “pursuant to rules of employment or the equivalent, a dispatching employer”; the term “a worker for whom” in the same Article shall be deemed to be replaced with “a worker who can be made to work for working hours under the provisions of Article 26 of the Worker Dispatching Act, based on the worker dispatch contract with regard to the worker concerned under paragraph (1) of the same Article”; the term “at the workplace concerned” in the same Article shall be deemed to be replaced with “at the workplace of a business of the dispatching undertaking, where the dispatching employer”; the term “at the workplace ” in paragraphs (1) and (2) of Article 32-4 of the same Act shall be deemed to be replaced 6 with “at the workplace of business of the dispatching undertaking, where the dispatching employer”; the term “at the workplace” in paragraph (1) of Article 36 of the same Act shall be deemed to be replaced with” at the workplace of a business of the dispatching undertaking, where the dispatching employer”; and the term “this to the relevant government agency ” in the same Article shall be deemed to be replaced with “and this to the relevant government agency”.

[答え]

日本語の中程に「(同項に規定する派遣元の事業をいう。以下同じ。)」とあります。これに対応する英語は
“(which means the dispatching undertaking prescribed in the same paragraph; the same shall apply hereinafter)”
ですが、「同項」は “the same paragraph” となってます。日本語原文に戻ると、この「同項」がその直前にある「第四十四条第三項」を指しているのは明らかです。しかし英訳では、 “the same paragraph” の直前に何も条項がないので、宙ぶらりんになってます。強いて探せば、少し前にあるparagraph (1) of Article 32-2 ですが、これでは誤訳になってしまいます。これを解決する方法は勿論ありますが、紙面のスペースにも限りがあり、切りがないので、省略します。皆さんで考えてみて下さい。

[問題2](中級者向け)

ガス事業法

第三十九条の四 次条の規定による届出をした者(以下「届出事業者」という。)が同条の規定による届出に係る型式(以下単に「届出に係る型式」という。)のガス用品について第三十九条の十二の規定により表示を付する場合でなければ、何人も、ガス用品に同条の表示又はこれと紛らわしい表示を付してはならない。

Article 39-4 Except where a person who has given a notification pursuant to the next Article (hereinafter referred to as a “Notifying Manufacturer/Importer4”) affixes labels, pursuant to Article 39-12, to Gas Equipment categorized by the model to which the notification given under the said Article (hereinafter simply referred to as the “Model to Which Notification Pertained”), no person shall affix labels set forth in the said Article or other confusing labels to Gas Equipment.

[答え]

初級者向けよりもかなり短い条項ですが、問題はこちらの方が複雑です。
分かりやすくするために日本語の条文番号を、「同」の意味に従って(つまり、直前の条項を指す、ということ)、絶対表記にして書き直してみましょう。するとこうなります。「第39-4条 第39-5条の規定による届出をした者(以下「届出事業者」という。)が第39-5条の規定による届出に係る型式(以下単に「届出に係る型式」という。)のガス用品について第39-12条の規定により表示を付する場合でなければ、何人も、ガス用品に第39-12条の表示又はこれと紛らわしい表示を付してはならない。」次に日本語原文を敢えて見ないで、英語も同じ方針(つまり said は直前の条項番号を意味するということ)で書き直します。すると:“Article 39-4 Except where a person who has given a notification pursuant to Article 39-5 (hereinafter referred to as a “Notifying Manufacturer/Importer4”) affixes labels, pursuant to Article 39-12, to Gas Equipment categorized by the model to which the notification given under Article 39-12 (hereinafter simply referred to as the “Model to Which Notification Pertained”), no person shall affix labels set forth in Article 39-12 or other confusing labels to Gas Equipment.”日本語原文では第39-5条が二回、第39-12条も二回登場しますが、英語ではArticle 39-5が一回しか登場しません。文章も短いので、どこが間違っているかご自身で見つけてみて下さい。

[問題3](上級者向け)

金融商品取引法(これは金融庁のサイトです)

第五条
(中略) 2. 前条第一項本文又は第二項本文の規定の適用を受ける有価証券の募集又は売出しのうち発行価額又は売出価額の総額が五億円未満のもので内閣府令で定めるもの(第二十四条第二項において「少額募集等」という。)に関し、前項の届出書を提出しようとする者のうち次の各号のいずれにも該当しない者は、当該届出書に、同項第二号に掲げる事項のうち当該会社に係るものとして内閣府令で定めるものを記載することにより、同号に掲げる事項の記載に代えることができる。

(2) A person who intends to submit a statement set forth in the preceding paragraph for a Public Offering or Secondary Distribution of Securities to which the main clause of paragraph (1) or the main clause of paragraph (2) of the preceding Article applies, of which the total issue price or the total distribution price is less than 500 million yen and which is specified by a Cabinet Office Ordinance for this purpose (such a Public Offering or Secondary Distribution of Securities is referred to as “Small Amount Public Offering, etc.” in Article 24(2)), may state, among the matters set forth in item (ii) of the preceding paragraph, only those specified by a Cabinet Office Ordinance as the matters pertaining to the company, instead of descriptions on all of the matters listed in Article 24(2)(ii), unless the person falls under any of the categories of persons specified in the following items:

[答え]

この原文はかなりトリッキーで、「同項」と「同号」が混在しており、かつ「前項」という、別の「相対的」な呼び方も使われています。

この中で問題なのは、最後に出てくる「同号に掲げる事項の記載に代えることができる」の「同号」が何を指しているかということです。

この直前を見ると、「同項第二号」という表現があります。ではこの「同号」が何かというと、その直前に「前項の届出書」という表現があります。従って、この「同項」は、この「前項」、つまりこの条項が第5条第2項ですから、その第1項を指しているはずです。ということは、「同項第二号」は、「第5 条第1 項第2 号」を指しているということです。従って、更にその下にある「同号に掲げる事項の記載に代えることができる」の「同号」は、「第5 条第1 項第2 号」を意味します。従って、この「同号に掲げる事項」を英語に訳すと、絶対的な表記方法を採れば、 “matters listed in Article 5(1)(ii)” となるはずです。(疲れました?)

そこで英訳を見てみると、この箇所の英文は実際は “matters listed in Article 24(2)(ii)” となってます。
これはどういうことでしょう?

実はこの訳者は、「前項の届出書」という表現の更に前の「項」、つまり丸括弧の中にある「第二十四条第二項において「少額募集等」という。」の第二項がこの「同項」に該当する、と読んだわけです。ですから、「同項第二号」は、Article 24(2)(ii) であると判断した訳です。

そして、さすがに「同号に掲げる事項」の「同号」を指すのに、 “that” や “such” などの相対的な方法を使うには距離が離れすぎて居ると考え、具体的な条項番号を使ったのでしょう。これはとてもいい判断だと思いますが、残念ながら正しい「項」と「号」を外してしまった訳です。

この惜しいミスを避けるには、やはり、当の「第二十四条第二項」をあたってみることが一番確実です。そうすれば、その第二号にあるのが「事項」ではなく「者」であることが分かりますので、少なくとも何か変、と気がついたと思います。

ところで誤解を避けるために補足しておきますが、上記の引用ミスはともかく、この金融商品取引法の訳者(複数かもしれません)はかなりの達人です。念のために他の条項の訳も見ましたが、驚くほど一貫して品質を保ち、正確に、かつ英語として正しく訳しているように思います。英語がネイティブの方も加わっているような雰囲気ですが、原文の日本語の解読は緻密に行われています。日本人でも、例えばこの法律の第163 条など構文すら理解できないと思いますがどうでしょう。

このように「同号」問題は、なかなか難しい問題ですね。法務翻訳にからむいろんな問題も実は示唆してます。いずれにしても、絶対翻訳の姿勢を貫いて、引用された条項を一つ一つ確認すれば避けられる間違いです。しかし、金融商品取引法の様な複雑で大量の文章が絡む法令文の翻訳になる と、引用先の条項の確認作業も膨大なものになります。大変な労力が必要です。勿論、原文を作成・審査する各省庁や内閣法制局の担当官の方々が注いだ労力には比べるべくもありませんが、通常の翻訳に比べると軽く、二倍、またはそれ以上の労力がかかります。発注側も、受注側もこのことは十分了解しておかないと、満足の行く成果は得られないでしょう。

2. 広義の同号問題

「同号問題」、いかがでしたか?さぞかし目が疲れたのではないでしょうか。次に「広義の同号問題」について触れてみます。

これも例を見ていただくのが話が早いと思います。

例文A:
“The Company’s certificate of incorporation requires the approval of not less than a majority of the voting power of the holders of the shares of Class A Common Stock to amend certain powers, preferences and special rights of the common stock, if such amendment would adversely affect the rights of such class of common stock.”

試訳I:
当社の定款は、当該修正が当該クラスの普通株式の権利に不利な影響を及ぼす可能性がある場合は、普通株式の特定の権能、優先権および特権の修正には、クラスA 普通株式の保有者が持つ議決権の過半数以上の承認が必要である旨を定めている。
試訳II:
当社の定款は、普通株式の特定の権能、優先権および特権の修正がクラスA普通株式の権利に不利な影響を及ぼす可能性がある場合は、当該修正には、当該クラスの普通株式の保有者が持つ議決権の過半数以上の承認が必要である旨を定めている。

試訳Iは、「当該改訂が普通株式の当該クラスの権利に不利な影響を及ぼす可能性がある場合は」という出だしですが、前触れなく、「当該改訂」とか「当該クラス」という表現が登場します。いったいこれは何でしょう。英語原文を見ると、この出だしが “if such amendment would adversely affect the rights of such class of common stock” に該当するので、この二つの「当該」はそれぞれ、such amendment と such class of common stock を訳したものであることが分かります。

英語の場合は、この if clause が最後にあるため、これらの such が何を指すのかはそのちょっと前を見ればすぐ解決します。一方、試訳I は、日本語では if clause に該当する部分が(日本語翻訳の自然な流れで)文章の最初に回されたのに、 such を機械的に「当該」に置き換えているだけです。従って、日本語だけを読んだ場合、その前には何もないので、読者は戸惑ってしまいます。

試訳II はこれを解決する一つの方法です。出来上がった日本語の中で、読者がなるべく楽に「当該」に対応するものを見つけられるようにする工夫が大事です。

どうです。「同号問題」と似てますね。このように日本語と英語の構文の違いにより、「位置の入れ替え」が必要となることは法務翻訳では結構頻繁に発生します。「木を見て森を見ず」とならないよう、常に出来上がった訳文と回りの文章の関係に意を配ることが必要です。

今度は日本語を英訳する時の例を挙げてみます。偶々インターネット上で目にした全国産業廃棄物連合会の雛形を使わせていただきました。

例文B:
「甲は、上記の内容以外にも、乙の要求に応じて、適正処理に必要な情報を、乙に提供する。乙は(社)全国産業廃棄物連合会(以下「連合会」という。)の「廃棄物処理委託仕様書」と「廃棄物物性・安全データーシート」(連合会の「産業廃棄物処理受託の手引」を参照)の項目の内容等を参考に適正処理に必要な情報を甲に対して、要求することができる」

試訳I:
In addition to the above, at the request of the Contractor, the Client shall provide the Contractor with any information that shall be necessary for the adequate disposal. The Contractor may demand, with due regard to the items listed in “Specifications for the Entrustment of Industrial Waste Disposal” and “Data Sheet on Properties and Safety of Industrial Waste” (please refer to the “Guide on Acceptance of Entrustment of Industrial Waste Disposal” issued by the Federation) issued by National Federation of Industrial Waste Management Associations (hereinafter referred to as the “Federation”), that the Client provide information that shall be necessary for adequate disposal.
試訳II:
In addition to the above, at the request of the Contractor, the Client shall provide the Contractor with any information that shall be necessary for the adquate disposal. The Contractor may demand, with due regard to the items listed in “Specifications for the Entrustment of Industrial Waste Disposal” and “Data Sheet on Properties and Safety of Industrial Waste” issued by National Federation of Industrial Waste Management Associations (hereinafter referred to as the “Federation”) (please refer to the “Guide on Acceptance of Entrustment of Industrial Waste Disposal” issued by the Federation), that the Client provide information that shall be necessary for adequate disposal.

この「広義の同号問題」は、契約書の中に用語定義がある時によく発生します。試訳Iでは、あまり深く考えずに (please refer to the “Guide on Acceptance of Entrustment of Industrial Waste Disposal” issued by the Federation) の位置を決めたため、Federation という用語が、肝心の定義条項の前に来てしまいました。試訳II はその解決を試みたものです。

但し、これも「(連合会の「産業廃棄物処理受託の手引」を参照)」が直前の「廃棄物物性・安全データーシート」のみを修飾していて、その前の「廃棄物処理委託仕様書」が修飾の対象外だと、別の工夫が必要です。

3. トピック立て

これも私の造語です。

法務翻訳の仕事を本格的に始めると、受け取る英語原文が、結構だらだらと続く長い文章であることに気づかれると思います。英語のままで読む分には、長いということを別にすれば、特に読み辛いということはあまりありません。しかし、これを日本語に翻訳すると、文章の各構成要素の並び方が入れ替わってしまうため、結果的に、一体、何がポイントなのか把握しづらくなることがあります。例を挙げて説明しましょう。

例文A:
“The Company’s certificate of incorporation requires the approval of not less than a majority of the voting power of the holders of the shares of Class A Common Stock to amend certain powers, preferences and special rights of the common stock, if such amendment would adversely affect the rights of such class of common stock.”

試訳I:
当社の定款は、普通株式の特定の権能、優先権および特権の修正がクラスA普通株式の権利に不利な影響を及ぼす可能性がある場合は、当該修正には、当該クラスの普通株式の保有者が持つ議決権の過半数以上の承認が必要である旨を定めている。
試訳II:
当社の定款は、普通株式の特定の権能、優先権および特権について、それらの修正がクラスA 普通株式の権利に不利な影響を及ぼす可能性がある場合は、当該修正には、当該クラスの普通株式の保有者が持つ議決権の過半数以上の承認が必要である旨を定めている。

この例文Aは上の「広義の同号問題」の例文Aと全く同じものです。その時の試訳IIが、ここでは試訳Iになってます。何か改善の余地がある、ということでしょうか?

試訳I の「普通株式の特定の権能、優先権および特権の修正がクラスA 普通株式の権利に不利な影響を及ぼす」の意味は、

「権能、優先権および特権」

の修正がクラスA普通株式の権利に不利な影響を及ぼすことです。しかし読みようによっては、

「権能」と

「優先権」、そして

「特権の修正」

に分かれていて、これらがそれぞれ不利な影響を及ぼす、と解釈される可能性もないとは言えません。この誤った解釈の可能性は、「権能、優先権および特権」に相当する部分が長くなればなるほど増えます(実際、とんでもなく長くなることは実際の法務翻訳では日常的に起きます)。

そこで「権能、優先権および特権」がひとつのまとまりで、これ全部に「修正」がかかることを誤解なく伝えることが必要になります。それを考慮した「改良版」が試訳II の「権能、優先権および特権について」という「一つにくくる」工夫です。これを私は勝手に「トピック立て」と呼んでます。

ちょっと例を変えてみますか。例えば、未開の土地に乗り込んだ探検家から、次の様な報告書が来たとします。

「ルキ、ミク、ホマ及び象の鼻は長い。」

これを読んだ人は、「どうやらこの土地には象がいるのは分かったが、ルキ、ミク、ホマとは何だろう。」と思うでしょう。そして「象の鼻が長い」ことは明確としても、「ルキ」や「ミク」、「ホマ」は、その本体が「蛇」の様に長いのか、はたまた、象と同じで、その鼻が長いのか、この報告書だけではよく分からないでしょう。

この疑問は、例えば「ルキ、ミク、ホマ及び象については、それらの鼻は長い。」と書いてあれば、氷解します。これがトピック立ての一つの効用です。

この文章は、もう少し短くして「ルキ、ミク、ホマ及び象は、鼻が長い。」とした方がすっきりしますね。

他にも例を挙げておきましょう。

例文B:
“Deferral of shipment shall not eliminate or relieve the Purchaser from its obligation to pay to the Seller the balance due for such Product by the date 10 days prior to the original Scheduled Shipment Date pursuant to Section 5.2 above.”

試訳I:
出荷延期は、本製品の代金の未払残高を当初の本件予定出荷日の10日前までに売手に対して支払う前第5条第1項に基づく買手の義務を取消したり、免除したりしないものとする。

どうでしょう。この訳文は英語原文をそれなりに素直に訳したつもりですが、一回読んだだけでその意味をさっとすくい取れましたか?

試訳II:
出荷延期によっても、本製品の代金のうちの未払残高を当初の本件予定出荷日の10日前までに甲に対して支払う前第5条第1項に基づく乙の義務については、その取消や免除はないものとする。

これで少しめりはりがついたと思います。いかがでしょう?

例文C:
“The Purchaser may cancel purchase orders for consumables, parts, and services without penalty by providing written notice to the Seller at least thirty (30) days prior to the scheduled shipment date or service date.”

試訳I:
乙は、消耗品、部品およびサービスの注文を、予定された出荷日またはサービス提供日の少なくとも30日前までに甲に対して書面通知を提供することで、罰金を支払うことなくキャンセルできるものとする。
試訳II:
乙は、消耗品、部品およびサービスについては、予定された出荷日またはサービス提供日の少なくとも30日前までに甲に対して書面通知を提供することで、罰金を支払うことなくそれらの注文をキャンセルできるものとする。

例文D:
“The Seller may refuse the return of any Product not timely rejected or sought to be returned without a valid return authorization number.”

試訳I:
売手は、しかるべき期間内に拒絶されなかった、または有効な返品許可番号が伴わず返品が求められた本製品の返品を拒否できるものとする。
試訳II:
売手は、しかるべき期間内に拒絶されなかった本製品、または有効な返品許可番号を伴うことなく返品要求があった本製品については、それらの返品を拒否できるものとする。

4. トピック埋め

トピック立てがあれば、当然、トピック埋めもありです。勘の鋭い方は、「トピック立て」のコーナーで気づかれたかもしれません。

日本語の法律や契約文書では、「について」や「につき」という表現を頻繁に目にします。これを英語に訳すときは、大体 “with respect to” や “with regard to” 等の決まり文句で処理するのが常套手段の様です。

日本法令外国語訳データベースシステム文脈検索でちょっと見てみましょう。

例文A:
民事訴訟法 第二百六十九条の二 第一項

第六条第一項各号に定める裁判所においては、特許権等に関する訴えに係る事件について、五人の裁判官の合議体で審理及び裁判をする旨の決定をその合議体ですることができる。ただし、第二十条の二第一項の規定により移送された訴訟に係る事件については、この限りでない。

(1) In the court specified in each item of Article 6(1), with regard to a case pertaining to an action relating to a patent right, etc., a panel of five judges may make an order to the effect that said panel shall conduct a trial and make a judicial decision on that case;provided, however, that this shall not apply to a case pertaining to a suit transferred pursuant to the provision of Article 20-2(1).

上の訳文の英語で別に問題はありませんが、次の様に訳して “with respect to” を消してしまう方法もあり、だと思います。

In the court specified in each item of Article 6(1), a panel of five judges may make an order to the effect that said panel shall conduct a trial and make a judicial decision on a case pertaining to an action relating to a patent right, etc.; provided, however, that this shall not apply to a case pertaining to a suit transferred pursuant to the provision of Article 20-2(1).

実際、上記の文脈検査に「について」をキーワードとして放り込んで検索してみると、“with respect to” も “with regard to” も使わないで文章の中に埋め込んでいる例が多く見られます。この技は全ての場合で有効とは思いませんが、場合によっては、法務的等価性を維持しつつ、よりきびきびとした英文を作ることができますので、一度お試し下さい。

これはいろいろと実例をお見せすると、面白いのですが、紙面も限られていますので、日本法令外国語訳データベースシステム文脈検索で見つけた計量法の例を最後にご紹介します。

この中の二つの異なる条項の英訳の違いが興味深いです。最初の例は、トピック埋めをした例。次のは「について」を素直に “with respect to” で置き換えた例です。多分、別々の訳者の手になるものだと思います。皆さんのお好みはどちらでしょう。

例文B:
計量法 第十九条 第一項

特定計量器(第十六条第一項又は第七十二条第二項の政令で定めるものを除く。)のうち、その構造、使用条件、使用状況等からみて、その性能及び器差に係る検査を定期的に行うことが適当であると認められるものであって政令で定めるものを取引又は証明における法定計量単位による計量に使用する者は、その特定計量器について、その事業所(事業所がない者にあっては、住所。以下この節において同じ。)の所在地を管轄する都道府県知事(その所在地が特定市町村の区域にある場合にあっては、特定市町村の長)が行う定期検査を受けなければならない。ただし、次に掲げる特定計量器については、この限りでない。

(1) A person who uses, for measurements in statutory measurement units in conducting transactions or certifications, a specified measuring instrument specified by Cabinet Order (excluding those specified by Cabinet Order set forth in Article 16, paragraph 1 or Article 72, paragraph 2) which is deemed to be appropriate to be inspected on a regular basis pertaining to its performance and instrumental error in consideration of its structure, conditions for use, actual use status, etc. shall place the specified measuring instrument under a periodic inspection conducted by the prefectural governor (or the head of the specified municipality, if the person’s place of business is located in such a specified municipality) having jurisdiction over the location of the person’s place of business (or the person’s domicile, if the person has no place of business; hereinafter the same shall apply in this Section);provided, however, that this shall not apply to the following specified measuring instruments:

例文C:
計量法 第百十六条 第一項

計量証明事業者は、第百七条の登録を受けた日から特定計量器ごとに政令で定める期間ごとに、経済産業省令で定めるところにより、計量証明に使用する特定計量器(第十六条第一項の政令で定めるものを除く。)であって政令で定めるものについて、その登録をした都道府県知事が行う検査(以下「計量証明検査」という。)を受けなければならない。ただし、次に掲げる特定計量器については、この限りでない。

(1) A measurement certification business operator shall, pursuant to the provision of the Ordinance of the Ministry of Economy, Trade and Industry, receive an inspection performed by the prefectural governor who has granted a registration to the measurement certification business operator (hereinafter referred to as a “measurement certifications inspection”) with respect to specified measuring instruments used for measurement certifications (excluding those specified by the Cabinet Order set forth in Article 16, paragraph 1) at intervals, specified by Cabinet Order for each specified measuring instrument, from the date of registration set forth in Article 107;provided, however, that this shall not apply to the following specified measuring instruments:

5. 英語のコンマ(,)と日本語の読点(、)は別

法務文書の翻訳のチェックを頼まれるとよく見るのが、「○○は、××を含むがこれに限定されず、△△とする。」という訳文です。これは明らかに “xxx, including but not limited to xxx, shall xxx.” をそのまま訳したものでしょう。Google で “を含むがこれに限定されず” をキーワードにして検索すると山の様にヒットします。

たまたま今Google で検索したら、ニュージーランド航空のサイトがトップから二番目に出たので、申し訳ないですが、代表選手として取り上げさせて下さい。

ここでは次の様な条項があります。

「このサイト内の素材は、明示黙示を問わずあらゆる種類の保証なく、「現状のまま」提供されます。ニュージーランド航空は、適用法に従い認められる最大の範囲で、商品性および特定目的に対する適合性の黙示保証を含むがこれに限定されず、明示黙示のすべての保証を否認いたします。」

同航空の英語のサイトに飛ぶと、その英語 原文が手に入ります。次の様な内容です。

“The materials in this site are provided “as is” and without warranties of any kind either express or implied. To the fullest extent permissible and subject and pursuant to applicable law, Air New Zealand disclaims all warranties, express or implied, including, but not limited to, implied warranties of merchantability and fitness for a particular purpose.”

英語原文は、標準的な内容のもので、何の問題もありません。しかし他方で、「ニュージーランド航空は、適用法に従い認められる最大の範囲で、商品性および特定目的に対する適合性の黙示保証を含むがこれに限定されず、明示黙示のすべての保証を否認いたします。」という日本語は不自然ですね。これを素直に読むと、「ニュージーランド航空は、(中略)商品性および特定目的に対する適合性の黙示保証を含むがこれに限定されません。そして、明示黙示のすべての保証を否認いたします。」となり、意味が通りません。

これは英語の「 , 」を闇雲に日本語の「 、 」に置き換えたためです。英語の「 , 」は、including 以下が all warranties を修飾していることが明かです。それは warranties が including の直前に置かれているという英語の構造がその解釈を許しているからです(express or implied がちょっと邪魔してますが、これが挿入句であることは明白なので、思考の流れが妨げられることは ありません)。しかし、日本語の「 、 」は残念ながらその様な機能は果たせません。まず、「含む」が「保証」の前に置かれています。これは例えば、「ニュージーランド航空は、商品性および特定目的に対する適合性の黙示保証を含み、明示黙示のすべての保証を否認いたします。」 となっていれば、まだ、「黙示保証」が「全ての保証」に含まれるものだとの解釈が可能です。 しかし、「含むがこれに限定されず」という書き方になっているため、後ろの「保証」とのつながりが希薄になり、むしろ直前の「ニュージーランド航空は、」とのつながりが強調されてます。その結果、「ニュージーランド航空は、適合性の黙示保証を含むがこれに限定されない」 というおかしな読み方に傾いてしまいます。

訳文が作られたプロセスはともかく、最終的な日本語がおかしい、という直感を大事にすべきですだと私は思います。そして、この条文の実体を直視し、それを素直に日本語にすればよいのです。そのときに何も「原文がコンマだから、日本では読点にしなきゃ」、と縛られる必要はないと思います。

ということで、私であれば、これは次の様にします。

「ニュージーランド航空は、適用法に従い認められる最大の範囲で、明示か黙示かを問わず、すべての保証(商品性および特定目的適合性の黙示保証を含むがこれに限定されない)を否認いたします。」

原文にない( )を使ってよいのか、という声もあるかと思いますが、全く問題ないと思います。法務的にはこれで等価ですし、元の日本語に見られる流れのつまづきはないと思います。

ニュージーランド航空だけを取り上げるのも、ちょっと気が引けますので、次に Google の例 を見てみましょう。

GOOGLE APPS PREMIER EDITION AGREEMENT
“3.10. (中略)A Customer in a country outside of the United States or Customer, when providing End User Accounts to End Users located outside the United States, agrees to additionally comply with any local rules regarding online conduct and acceptable content, including but not limited to laws regulating the export and re-export of data to and from the United States or such other country.”

Google Apps Premier Edition 契約
「3.10. (中略)米国外のお客様や、米国外のエンドユーザーにエンドユーザーアカウントを提供しているお客様は、米国または居住国へのデータの輸出入および再輸出入を規制する法律を含むがこれに限定されず、オンラインでの行為および許可されるコンテンツに関するあらゆる自国の法規にも従うことに同意するものとします。」

この Google の和訳は、「含むがこれに限定されず」が「自国の法規」から更に遠く離れていますので、よほど法務文書に慣れた人でないと(つまりこの種の文章の本来の意図が分かっている人)意味を正確に読み取るのは難しいでしょう。これも次の様にすれば、さほど難しくはありません。

「米国外のお客様や、米国外のエンド ユーザーにエンドユーザーアカウントを提供しているお客様は、オンラインでの行為および許可されるコンテンツに関するあらゆる自国の法規(米国または居住国へのデータの輸出入および再輸出入を規制する法律を含むがこれに限定されません)にも従うことに同意するものとします。」

上の例を敢えて出したのは、実際の法務翻訳の仕事で受け取る原文は、もっと複雑なものが普通だからです。その様な英文条項の例を出しておきます。これを何の工夫もせず、コンマを全て読点で済ますのは無謀と言えます。

In no event shall the Seller be liable to the Purchaser, its agents, representatives, employees, customers or any other third party, for any incidental, indirect, special or consequential damages, including without limitation loss of use, loss of revenue or loss of profit, in connection with or arising out of this Agreement or the existence, furnishing or functioning of any item or services provided for in this Agreement or from any other cause, including without limitation claims by third parties, even if the Seller has been advised of the possibility of such damages.

6. 「及び」と「又は」の違いに神経質になろう

次の文章は、とある企業の福利厚生規則を少し編集したものです。

「社員の家族も、以下を条件として、本施設をご利用できます。

(1)社員が同伴すること。

(2)別途定める利用料を支払うこと。

(3)本規則第25条を遵守すること。」

この文章どう思われます。経験豊富な法務担当者であれば、こう突っ込みたい衝動にかられるでしょう。

「これは、(1) から (3) までの条件を全て満たせば利用できるということ?それとも、どれか一つでも該当すればいいの?」

翻訳文に限りませんが、何故か日本語のこの種の文章は、AND結合か、OR結合かの区別にあまりこだわらない印象を受けます。昔々、私が社会人一年生の新米社員だった時に、作成中のマニュアルの表現について、マニュアル担当部署の人達と打合せたことがあります。ちょうど、 この構造の文章が俎上に乗り、「および」か「また」のいずれかを足そうとしたら、その部署の部長さんが、「そういう接続詞はない方が文章がすっきりするので、入れないでおこう」と言ったのでびっくりしました。意味が全く変わりますよね。

実は、英語の(少なくとも)法務文書でもこの様な箇条書きは頻繁に見られますが、例外なく、それが AND なのか OR なのか明確にします。(a) …; (b) …; (c) …; and (d) … の様に、最後の項目の直前に入ります。私もこれまで1,000 件を超える英文文書を見てきましたが、この種の 箇条書きで and も or も入っていないのを見たことはほとんどありません。

しかし、日本語の翻訳文では、「および」も「または」も抜けているのを数多く見てきました。今回もインターネット上で公開されているものを見てみましょう。

Terms of Use of LimuGear.com
LIMITED LICENSE; RESTRICTIONS “Subject to the terms and conditions of this Agreement, Limugear.com hereby grants you permission to display, cache, and download Limugear.com’s Materials on this website provided that: (1) you display the relevant ownership notices provided with the Materials; (2) the use of such Materials is solely for your personal, non-commercial and informational use and will not be used for commercial gain; and (3) the Materials are not modified in any way.”

thelimucompany.com ウェブサイト利用規約
限定ライセンス、制限 「この同意書の諸条件に従い、TLCはこのウェブサイトに掲載されたTLCの素材を表示、保存およびダウンロードすることを、以下を条件としてあなたに許可します。(1)素材と共に関連する所有権を表示すること、(2)そのような素材の使用はあなたの個人的、非商業的および情報提供のための使用のみを目的とし、営利目的で使用されないこと、(3)素材はいかなる方法でも変更されないこと。諸条件に違反があった場合、この許可は通知なしに自動的に終結します。」

原文では確かに and が入ってますが、和訳では抜けてます。この条項の場合は、その文脈から、多分AND 接続だろうという推測が可能です。しかし、全くその推測ができない例も見たことがあります。原文は明確に and (または or)と書いてあるのですから、この訳文は無意味に曖昧です。

なお、日本語の法律や契約書では、このような場合、箇条書きの最後の項目の直前に「および」は「または」を入れる方法はどちらかというと例外的です。主流は例えば次の様に、冒頭の文章の中でその交通整理をすることです。

「職業安定法施行規則 第四条 第一項
労働者を提供しこれを他人の指揮命令を受けて労働に従事させる者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号。以下「労働者派遣法」という。)第二条第三号に規定する労働者派遣事業を行う者を除く。)は、たとえその契約の形式が請負契約であつても、次の各号のすべてに該当する場合を除き、法第四条第六項の規定による労働者供給の事業を行う者とする。」

「銀行法 第五十二条の五十二
銀行代理業者が次の各号のいずれかに該当することとなつたときは、当該各号に定める者は、その日から三十日以内に、その旨を内閣総理大臣に届け出なければならない。」

しかし、条約等の場合は、英語的な書き方をすることもあるようです。私が見つけた例をお見せしましょう。

特許表条約外交会議のための草案

英文:
(1) [Request] Where an applicant or owner has failed to comply with a time limit for an action in a procedure before the Office, and that failure has the direct consequence of causing a loss of rights with respect to an application or patent, the Office shall re-instate the rights of the applicant or owner with respect to the application or patent concerned, if:
(i) a request to that effect is made to the Office in accordance with the requirements prescribed in the Regulations;
(ii) the request is made, and all of the requirements in respect of which the time limit for the said action applied are complied with, within the time limit prescribed in the Regulations; 19
(iii) the request states the grounds on which it is based;and
(iv) the Office finds that the failure to comply with the time limit occurred in spite of all due care required by the circumstances having been taken or, at the option of the Contracting Party, that any delay was unintentional
日本文:
(1)[申請] 官庁に対する手続上の行為のための期間を出願人又は権利者が満たさなかった場合であって、その非遵守が、直接的な結果として出願又は特許に関する権利喪失を引き起こした場合は、官庁は、以下を条件として、出願又は特許に関して出願 人又は権利者の当該権利を回復する。
(i) その趣意での申請が規則に定める要件に従って官庁になされていること、
(ii) 規則に定める期間内に、申請がなされており、かつ当該行為のための期間に関 して適用される要件の全てが満たされていること、
(iii) 申請に根拠となる理由を表すこと、及び、
(iv) 期間の非遵守が、状況に応じたすべてのしかるべき措置を講じたにもにもかかわらずに発生したものであること、又は締約国の選択により、その遅延が故意ではなかったことを官庁が認可すること。

7. ドイツ語の助けを借りる

「持参債務」のように源がドイツ法にあって、英米法との関連が薄い単語の場合、英語の訳語を決めるのに苦労します。こういう言葉は民法の分野にごろごろころがってます。

まずあまりに専門的な言葉なので一般の和英辞書には載りません。例えば日本で一番権威のある研究社の新和英大辞典(私のはちょっと古く1996 年版ですが)には載ってません。次にあまりに古めかしいせいか、最新用語には滅法強い alc.co.jp も扱ってません。

そういうときはドイツ語の辞典を調べると思いがけなく道が開けることがあります。これで、まず持参債務がドイツ語では Bringschuld ということが分かります。これは Bring (持参)とSchuld (債務)が合体したものです。そこで次に独英辞書で調べると、 debt to be discharged at creditor’s residence という英訳に出会えます。独日英辞書があればなお便利です。私は独日英ビジネス経済法制辞典(郁文堂)を重宝してます。

和独辞典で見つけたドイツ語と、見当をつけた英語の単語をキーワードにしてGoogleで探す方法もあります。試しに Bringschuld と payable をキーワードにして Google で検索すると、debt payable at the address of the payee という表現が見つかりました。

こうやっていろいろ手を尽くすと、例えば Obligations to be discharged at the place of the obligee という別の表現も見つかります。

もう一つの手は、ドイツ語のWikipedia のページに飛んで、そこで調べたドイツ語を入力してドイツ語の解説ページを開き、その左の各国語の欄に English があれば、それをクリックして、英語の解説を見るという方法です。残念ながら Bringschuld の場合、英語の解説まではありません。しかし、例えば「取得時効」ですと、和独でまず Ersitzung を調べ、ドイツ語のWikepedia で該当事項のページを開きます。すると、嬉しいことにEnglish の項が出てます。そこに飛ぶと、いろいろ英語が並んでいて、adverse possession 等、使えそうな英単語に出会えます。

なお、法律用語を専門に扱う英和・和英辞典にはこの種の言葉を丁寧に拾っているものもあります。私が重宝しているのは、中央経済社の「英和・和英ビジネス法律用語辞典」とWAVE出版の「英和和英法律・会計・税務用語辞典」です。

8. 組み立て家具の要領で

ホームセンターで買った家具を組み立てる時は、端からどんどんねじを目一杯締めていくと最後には歪みが出ます。ねじを軽く締めながら仮に組み、その後で全体のバランスを見て歪みを直してから徐々に最後の締めにかかるのがコツです。法務翻訳の場合もこの方法が有効です。

仮締め:

原文から訳文を最初に起こす時は、あまり表現の稚拙さにこだわる必要はないでしょう。とにかく、抜けがないこと、そして内容を正確に訳し出すことに専念します。ですから、英語の単語を忠実に拾った結果、最初出来上がる訳文が次のようなごつごつしたものになっても全く構いません

例:
「甲は、当初有効期間の次の契約上の期間の間の場合において出荷時における数量及び荷姿の検査、及び電気が通るかどうかの試験の実施を行おうとする場合は、乙に対して通知を行うことで十分とし、乙の同意を書面によるか口頭によるかを問わず得ることは必要ないものとする。」

訳語の選択も、後で全体を把握してから見直せばよいので、最初は必要以上に考え込まないほうがいいでしょう。とにかく時間がないので、どんどん先に進むことが大事です。例えば、 fine という言葉が出てきたとして、それが「罰則」のことか「罰金」のことか分かりかねることもあります。取りあえず「罰則」として、後でどうやら罰金のことを言っているようだ、と気がつけば、その時点で直せばよいのです。場合によっては、罰金であることは確かだが、どうも「制裁金」と訳す方がいいと気がつくこともあります。その「気づき」は、翻訳作業が進み、 辞書、資料またはネット上の調べ事が進むに従って増えてきますので、ある程度まとまった時点で、ワードの全置換機能を利用して直せば十分です。

本締め:

「仮締め」は、とにかく訳に抜けがないか、ということと、せいぜい前後数行の狭い範囲の文章構成の精度に意を配ります。そして最後は、全体の文脈の中での用語統一や、冗長表現の簡素化に努めて(例えば「および」と「ならびに」の整理等)本締めとします。

上の例ですと、こうなります↓

「甲は、当初有効期間の翌契約期間中において、出荷時に数量及び荷姿の検査並びに通電試験を行う場合は、乙への通知で十分とし、乙の同意は、書面か口頭を問わず、不要とする。」

上の例では仮締めと本締めの二段階でした。実際は、時間さえ許せばこれを何度も漆塗りの様に繰り返します。繰り返すほどに内容の理解も進み、より効率的な訳文や文章構造が思い浮かびます。

もう一つ例を見てみましょう。

原文:
The new system is designed to meet the new challenging production target for facilities covered by the Program.

仮締め:
新制度は、本プログラムが対象とする設備を対象とした新たな意欲的な生産目標の達成をその目的としている。
本締め:
新制度は、本プログラム対象設備向けの意欲的な新生産目標につき、その達成を目的とするものである。

9. インターネット上で契約書の中の使用例だけを調べたい

例えば、 punitive という言葉が英文契約書でどのように使われているかを Google 等で検索するとき、単純に punitive という単語だけをキーワードにすると、契約書以外の文書も全て検索対象になります。その膨大な検索結果から、契約書での使用例を探すのは大変です。こういう 時は、 “in witness whereof” を引用符の中にいれて punitive とAND条件で検索すれば、ほぼ契約書の例だけが拾えます。これは、英語の契約書では、ほとんど場合、末尾署名欄の直前にin witness whereof という文句が載っているからです。同じ理由で “now, therefore, in consideration of” を代わりに使ってもほぼ同じ効果が得られます。これは、英文契約書の冒頭で慣用的に使われる文言です。

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