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AI による翻訳(今朝の日経記事から)

2017年1月25日

今朝(2017年1月25日)の日経朝刊に『翻訳、瞬時に自然な文体』という記事があります。

NTTコミュニケーションズが瞬時に自然な文体へ翻訳できる人工知能を開発し、今年10月の商用化を目指しているとのことです。

少なくとも法務翻訳の分野ではITやAIの活躍は限られるだろう、ということは元旦の記事でも書きました。今朝のこの短い記事を読んでも、あまり革新的な技術ではないという印象を受けます。

私がちょっと反応したのは「自然な文体」という言葉です。

この「自然な文体」、「自然な日本語」、「自然な英語」というのがなかなかのくせ者です。私も過去、日本人が作成した契約書の英訳を日本語をあまり理解していないネイティブの方が「refine」してより自然な英語に直したものをレビューしたことがあります。確かに出来上がった英語は流麗で素晴らしいものでしたが、肝心のポイントがゴソッと抜けてました。文章そのものが権利・義務を生む契約書ではこれは致命的な欠陥です。

逆に英語を日本語に訳す場合、とある日本人の方(法務が専門の人ではありません)が、  “If Consultant assigns or attempts to assign this Agreement without Client’s express prior written consent, this Agreement shall terminate immediately.” というような表現を全て「コンサルタントが本契約を譲渡する場合」と訳した例もあります。(こちらのページでもう少し詳しく書きました:https://kaicorp.com/blog/335.html)

譲渡を試みたが実際には譲渡を実行していない場合も契約解除の根拠となる、というのが英語原文の大事なポイントですが、この日本語ですと全く反映されません。

翻訳者はこの方が「自然な日本語」だと思ったのかもしれませんが、それでは仕事をしていないことになります。

そもそも契約書に代表される法務文書は、原文においても特に流麗であること、自然な表現であることは必須条件ではありません。大事なのは当事者の主張がちゃんと言葉に反映されていることです。取引内容が複雑になれば、文章も複雑になります。「自然な日本語」や「自然な英語」から逸脱することはよくあります。(勿論、米国でもそのような複雑な文体(legalese)が批判され、plain English を目指する活動はありますが)

ということで、「自然な」という売り文句はこと法務翻訳に関する限りは要注意ですね。

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