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就業規則の英文化に関する本のご紹介

2016年1月23日

日本法令から「逐条解説付 わかりやすい語法による英文就業規則のつくり方」という本が出ました。

倉田哲郎氏とローソン・キャロル氏の共著です。

キャロルさんは旧知の仲です。随分昔になりますが、翻訳を手伝っていただいたことがありますし、幾度かセミナーなどでご一緒しました。

数年前お会いした時に、就業規則に関する本を書いていると聞きました。それが出版の運びとなっていたのですね。遅ればせながら今年に入って気付き、早速アマゾンで取り寄せました。

 

内容について触れる前に本の外観について一言二言。

 

まず、本が柔らかくていいですね。表紙が固くないのが気に入りました。カバーもあまり光沢がなく、適度に摩擦があり扱い易いです。

カバーに帯が、と思ったら、それは帯ではなく、帯状に印刷されたものでした。これは斬新です。

帯はキャッチコピーが目に飛び込んできて効果的なものです。しかし私が購入する本は辞書や解説本がほとんどです。頻繁に出し入れするので、帯が邪魔になります。そのためすぐ捨てることにしています。ただ、何となく惜しい。著者や出版社に申し訳ない。という気もして、ストレスが溜まります。

この本は帯のように見えますが、カバーに印刷されているのでそのストレスがなく、気に入りました。

キャロルさんの氏名の日本語表記が「ローソン・キャロル」となっています。つまり日本人と同じく family name が先で、first name が後に来ます。

このような表記は初めてではないでしょうか。ところどころ英文表記もあり、そのときは Carol Lawson となっています。興味深いですね。キャロルさんのこだわりか、編集部の方針か、よくわかりませんが。私の手元には欧米人が著者となった日本語の本が沢山ありますが、このように氏名の日本語カタカナ表記で family name を先に出している例は一つもありません。

これだけでもこの本が野心的なものだという期待が持てます。

 

さて、内容ですが、外資系企業の人事・労務担当者の方がとても重宝する本でしょう。

特に末尾記載の「就業規則日英用語集」は便利です。

 

私もかって米国企業の日本法人で法務部長をしていましたので、日常的に人事・労務関連の仕事がありました。その頃は人事・労務関連の用語を英語にした辞書はほとんどなかったので苦労しました。

この本があれば、もう少し楽だったかも、と思います。

 

さて内容について触れたいのですが、折角ですので、就業規則の英語化を試みた別の本と比較しながらコメントします。

 

西村あさひ法律事務所の複数の弁護士先生がまとめた「和文・英文対照 モデル就業規則」がそれです。中央経済社から出てます。

 

以後、前者を「つくり方」、後者を「モデル規則」と呼ぶことにしましょう。

 

結論から言うと、「つくり方」の方が役に立つと思います。

「モデル規則」は基本的に和文と英文の並記にとどまり、規則の条文そのもの、具体的な用語についてはあまり解説はありません。

第1部として日本の労働法の一般的な解説があり、その英文が並記されてます。ですから、一般的なことを英語を解する外国人に説明するのには一定の効果はあります。ただ、全体的に英語そのものが固い印象を受けます。ネイティブの方の翻訳ではないような気がします。

 

「つくり方」の方ですが、英語は勿論キャロルさんが見ているはずで、とてもこなれたものです。ところどころ野心的な訳があり、私としても「おっ」と驚く箇所もありました。

 

条文毎に「解説」と「英語表現」という項目が続きます。これがとても便利です。思わず「そうそう」と相づちを打ちたくなるものばかりです。これを読むだけでも2,600円払う価値があります。「かゆいところに手が届く」本です。

 

「つくり方」では、『意味もない冗長な英文化は避ける』、そして『英語にする場合に補うべき単語はちゃんと補う』という基本方針が窺えます。

大賛成です。

日本人が作成する英語は原文に忠実であろうとするあまり、往々にして「不要な冗長さ」や、「致命的な抜け」が生まれます。

これは私も前から思っていたことですが、いかんせん、私は英語ネイティブではないのでこれを指摘することは控えてきました。

今回、法務翻訳の実務・教育両面のエキスパートで英語ネイティブでもある Carol Lawsonさんが一般出版物で公言してくれたのは、とても助かります。

 

キャロルさんの指摘で私も同感という指摘をいくつか抜き出してみました。

・「適否…: “suitability”. Suitability or otherwise という冗長な表現は不要です」(92ページ)

・「定年…: “mandatory retirement” … 英語圏の法律では一定の年齢に達した労働者は、自ら退職するか働き続けるかを選ぶことができます. 特定の年齢で退職が強制されることは英語圏では一般的ではないのです.」(102ページ)

・「など … : 可能であれば、「など」は見出しを英語にする場合は無視してください.見出しは本来不完全なものであり, “etc.” を使う必要はありません.」(118ページ)

・「半日単位で … : “in half day increments”. Increments の別の表現には, intervals も使えますが, units は不自然です.」(130ページ)

・「ウエブサイト … : “website”. Home page は和製英語です. Website が正しい英語表現です.」(149ページ)

 

他にも抜き出したい箇所が沢山ありますが、きりがありません。やり過ぎるとそれこそ著作権侵害になりますので、このあたりで止めます。単なる用語の解説の範囲を超えて、日本と英語圏の労務慣行の違いなどについて(おそらくキャロルさんが)語る箇所もあります。これがなかなか貴重です。

 

もう一人の著者である倉田氏は特定社会保険労務士ですが、同氏が書かれたと思われるアドバイスもみな当を得たもので、この本の価値を高めています。

 

業務上、少しでも興味があるようでしたら、是非お買い求め下さい。決して損しません。

 

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