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Entire Agreement 条項

2019年3月27日

[お断り:今回も含めて、英文契約の話をするときは、相手方が米国企業で、相手の担当者は米国人弁護士という前提です。英文契約でも、相手企業が英国や豪州、さらにはシンガポールや香港という可能性もあります。また、米国企業の契約担当者が米国人以外というケースも多いです。しかし話を簡単にするためにこう割りきります。私は米国弁護士ですが、英国やその他の英米法体系の国の法律は専門外ですので、それも理由の一つです。]

 

英文契約には日本の契約では見ない定型的な条項が多くあります。その中で Entire Agreement 条項が一番大事だと個人的には思ってます。

「完全合意」条項と訳すことが多いですが、この条項のポイントは、契約に書いてないことは一切無視する、ということ。つまり契約交渉の過程で様々な合意がなされても、最終的にそれが契約に盛り込まれなければ考慮されないということです。当然のことのような気もしますが、契約交渉にあたる日本人担当者はややもすると、この点を忘れて会社の立場を危うくすることがあります。

随分前のことですが、日本の大手企業が米国企業と行った契約交渉に通訳兼コンサルタントとして参加したことがあります。最後、価格でもめたのですが、日本人の担当者の方が、次のような提案をしました。「契約書にはこの価格を載せることでいいが、○○の場合は○○の価格を適用して欲しい。それでいいのなら契約にサインする」

これに対して米国企業の担当弁護士は、それでいいよ、という態度でした。

この契約は勿論、典型的な米国の契約で、最後には“Entire Agreement” 条項が入ってます。しかし日本人担当者はそんなことは全く気にも留めてないようでした。口頭だが、ちゃんと相手と合意したら大丈夫、と思っていたようです。(日本の契約慣行であれば、相手との信頼関係さえあれば、この口頭合意はそれなりに有効でしょう)

そこで私が慌てて「この契約にはEntire Agreement という条項があり、その効果はかくかくしかじかですので、合意した○○価格についても、ちゃんと契約書の中に入れないと駄目ですよ。」とアドバイスしました。

結果的にはその方向で結ばれたようですが、米国側の交渉担当者は「余計なことを言って」と思ったかもしれません。

このEntire Agreement 条項にはそれが必須となる法的背景がありますが、そこまで深く勉強する必要はありません。とにかく契約対象事項に関する合意は、最終的にサインされる契約書に盛り込まないと無視される、ということを肝に銘じておくことが大事です。「無視」というのは、具体的に言うと、訴訟時に証拠として採用されないということです。

この条項は英米法関係の辞書で“Integration Clause” などとも呼ばれてますが、私のこれまでの経験ではほぼ100%、“Entire Agreement” という標題になってます。

上記の例は口頭合意でしたが、書面合意も同じです。最終契約に盛り込まれなければ証拠として採用されません。

ですから交渉の過程で交わした電子メールや議事録に自社とって大事な条件を入れても(そしてそれがたとえサインされていても)、最終的な正式契約書に盛り込まなければ、徒労に終わります。

相手の米国人弁護士もそれを承知の上で、(最終契約には盛り込むつもりなど全くなく)気軽に「いいよ、いいよ」と言うかも知れないので、要注意です。英文契約のドラフティングは大体、米国側が行いますからね。これはちょっと意地悪な見方ですが。

では、どうやって「盛り込む」か?これについては次回書きます。

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